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2018.05.30

インタビュー

好きなことが誰かの役にたつ喜び

造形作家/松下太紀さん

好きなことが誰かの役にたつ喜び

 2017年に宮崎市で行われた、こどもたちと一緒におみこしをつくる『地域対抗こどもアートプロジェクト笑みこし』や、若草通で行われたイベント『アートのふる街2016』など、宮崎県を中心に平面、立体、パフォーマンスなどジャンルを問わず活動している造形作家の松下太紀さん。爽やかな笑顔にモヒカンの髪型が印象的な松下さんが、作品を作り続ける思いとは?

好きなことが誰かの役にたつ喜び

子ども時代から好きなものづくり

 造形作家として、表現活動を続けている松下さん。幼い頃からモノをつくることが好きとのこと。松下さんがつくる立体作品のほとんどは、日常生活で目にするダンボールなどで、出来ています。愛らしい表情の亀や桶の温泉に浸かって気持ちよさそうな表情の猫など、可愛らしくて今にも動き出しそうな作品たちは、松下さんのユーモアを感じます。「いつから好きだったのか、思い出せないほど昔から、モノをつくることが好きです。最近はアートというより、作品を街中にポンとおいて景色を変えたり。偶然、通りかかった人たちが、作品と出会うのが面白いと感じ、つくることが多くなっています」

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誰かと作ることで広がった表現の幅

 数年前に、宮崎市内の小学生と一緒に、作品をつくる授業を担当した松下さん。その土地に根付くような作品を子どもたちとつくりたい!と、その地区のことを図書館で調べたり、試行錯誤を重ねました。その経験から作品づくりへの向き合い方が、変わってきたそうです。「ここ数年で、学校や街中のイベントなど、誰かと一緒につくる機会が増えました。例えば、学校で子どもたちと作る場合は、企画書と図案を用意をして先生に説明しています。『どんなものをつくりたい』とイメージを共有しながら完成に近づいていくようになりました。自分ができることを共有すると、違う視点からアイデアをもらえたりと、自分自身の制作方法の幅が、広がっていくのを実感しています」

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自分の思いを実現できない不安

 その土地ならではの思いや出来事を、立体作品として表現するようになった松下さん。作品を通して、県内外の人たちにも、思いを届ける機会が増えていきました。作品をつくる機会が求められることの喜びと同時に、表現者としての不安や悩みもありました。「最近はイベントや学校の授業に合わせて作品をつくることが多くなってきました。そんな時、自分が本当に作りたいものなのかと、不安を感じることもありました。単にわかりやすいものをつくることが、他の作家さんからみると、表層的だと思われているのでは?『自分はどうしたらいいんだろう』と考えてしまうこともありました。そんな時、子どもたちと作品をつくることで、気づかせてくれたことがありました。それは、ものをつくるのに色々なペースや色々な形の人がいるということです。『他人にどう思われたいか』ではなく、『自分らしく』作品をつくってもいいのかなと、気持ちが楽になりました」

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好きなものを作りながら、誰かの役に立ちたい

 宮崎の街中で作品を展示したことで、色々な人との繋がりが広がっていくのを実感した松下さん。表現方法や手段は変わっても、変わらないことがあります。それは『好きなものをつくること』と『誰かの役に立ちたい』という思いです。「僕の場合は生計的な部分で、絵や作品だけで生活できているわけではありません。正直、常に不安に思うことや悩むこともあります。しかし今は、自分の作品を宮崎の街の中で展示することで、いろんな人の目に触れたりリアクションが見れたり。イベントで一緒に制作をしていた人たちが、僕をきっかけに作品づくりを始めたり。少しづつ関係する人たちが、広がっていく楽しさや嬉しさが増えています。僕は、僕らしくこれからも好きなものを作り続けていきたいです」

 アートや芸術と聞くと、どうしても少し格式高く感じてしまいます。しかし松下さんは、誰かと一緒に作品を作ることで、美術館などだけでなく、身近に誰でもアートに触れ合う機会をつくっています。いつか偶然、街中で松下さんの作品に出会う日がとても楽しみです。