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2018.11.19

インタビュー

好きなことができるシンプルな強さ(後編)

農家/奈須亮介さん

 宮崎市池内町。のどかな畑に並んでいる葉の大きさや色や形の違う野菜たちを「トゲトゲのない『あごおち白菜』は、生で食べても美味しいんですよ!」と汗をぬぐいながら爽やかに話す彼は、元料理人で農家の奈須亮介さん。2 年ほど前からここで野菜を育てています。奈須さんが育てている野菜は、ひゃくしょう市場、菜菜館、よっちゃん広場などの直売所で販売しています。高校卒業後10 年以上、料理人として腕を磨いていた彼が、野菜づくりの楽しさに芽生えたきっかけとは、なんだったのでしょうか?

【農家/奈須亮介さん】

宮崎県出身。料理人として、18 歳から岐阜、北海道、東京、中国で働く。宮崎市池内町にある農地で野菜を栽培し、よっちゃん広場や歓鯨館などの直売所を中心に販売しています。

 後編では、奈須さんが農業を始めたきっかけやこれからについてのお話をお届けします。

自然と農家になる道を選択していた

奈須さんが育てているのは、トゲトゲのない『あごおち白菜』や夏場でも育つ『アスパラ泣かせ』などの珍しい種類の野菜が多いそうです。育てている野菜の美味しさをひきだす知識は、農家として働く今にも活かされています。18 歳から料理人として、さまざまな場所で経験を積んできた奈須さんは、なぜ包丁を置き、クワを手にすることになったのでしょうか。

「子どもの頃は、絶対に農家にはなりたくないと思っていました。両親が種苗屋なので、幼い頃にトマトのビニールハウスへ行くことがありました。その時は、ハウス特有の独特な匂いが苦手でした。子どもだったこともあり、農業って何が楽しいのかわからなかったんです。そんな僕が農業を始めることになったのは、宮崎に帰郷してからです。最初は、父の好きだったとんかつ屋さんの手伝いで宮崎に戻り、とんかつ屋さんの休みの日に農場の手伝いをしていました。その後、お店を閉業されるとの事で、海外に行こうとも思っていたのですが、気がついたら、僕がここで農業するようになっていて、包丁を置いてたんですよね」

野菜の美味しさを知って欲しい

農業の世界に一歩踏み出した奈須さん。さまざまな種類の野菜を育てて、直売所を中心に野菜を販売しています。食べることが好きで、旬な時期に食べる美味しさや、調理方法によって変わる味の特徴を、こと細かく考える彼だからこその農業。

「今までは、製品のレベルが低いことが課題でした。少しずつよくなっており、今年は野菜の知名度を上げることを課題にしています。ほうれん草や小松菜、他の野菜たちもお店に並ぶとどれも同じに見えてしまいがちです。油を使う時は、この野菜を使う、など特徴を考えながら買うことってほとんどないと思うんです。実際、僕も農業を始めるまでは考えたこともなくって。でも、この前たまたま行ったラーメン屋さんで、ショックなことがあったんです。そこのラーメンに小松菜がのっていてそれがすごく美味しくって、「この小松菜美味しいですね!」ってお店の人に話したら、「よくわかりましたね!ほうれん草と間違える人もいるんですよ」って言われた時にすごいショックで。お店でよく見かける野菜でさえも知名度が低いんだと悔しかったんですよね。僕が作った野菜も、まずは手にとってもらえるための工夫が必要だって改めて感じました」

野菜が100% 美味しい状態を伝えたい

美味しい野菜を食べて欲しい。しかし調理方法がわからない野菜は、手に取られにくいという現実。奈須さんは少しでも良さが伝わるように色々な工夫をしています。

「商品のポップに説明書きを添えるようにしてるんです。料理をする人は、自分で食べ方がわからない野菜は手に取りにくい。使いやすさで選ばれがちなんです。僕自身、この業界に携わってから気づきました。僕は料理人として働いていた経験があるので、野菜特性を生かした調理方法を説明できます。お店をされてる方が買いに来た時に、すごい納得して使ってもらえることも多くて。料理人としての経験が今につながっていると思います」

 私たちの生活の中で食とは、切ってもきれない存在。だからこそ美味しいものを食べたいけれど、野菜の特性や調理方法など知らないことも多いです。食べることの楽しみや誰かに食べてもらえることの喜びを、料理人として経験してきた奈須さんだからこそ、野菜づくりの楽しさを感じ、農業の道につながったのだと思います。