大好きな野球の仕事を宮崎で。諦めず切り拓いたグラブ職人への道
WORK
有限会社ボールパークドットコム 製造部 マネージャー両角 弥さん
野球プレーヤーにとって不可欠なアイテムであるグラブ(グローブ)。一般的に海外のレザーが使用されることが多いグラブですが、宮崎市にある有限会社ボールパークドットコムでは、宮崎県産黒毛和牛のレザーを使った希少性の高いグラブ作りを行っています。 グラブ職人として活躍する両角 弥さんは、学生時代に熱中した野球に関わる仕事がしたいと考え、有限会社ボールパークドットコムに就職。「プロ野球選手を支える」という夢を叶えました。学生時代やグラブ職人を目指した経緯、お仕事の内容について伺いました。
夢を諦めず、切り拓いたグラブ職人への道
自己紹介をお願いいたします!
両角 弥(もろずみ わたる)といいます。2001年1月生まれの23歳です。宮崎市で生まれ育ち、市内の小学校・中学校を卒業後、宮崎学園高等学校に進学しました。
小学校から高校までずっと、野球クラブや野球部に所属していました。現在は、大好きな野球のグラブを作る仕事をしており、製造部のマネージャーを務めています。
野球を好きになったきっかけは何だったのですか?
父が学生時代に野球をしていて、母も広島東洋カープのファンでした。
幼稚園のころから、父とキャッチボールをしたり、宮崎で行われる野球チームのキャンプに一緒に行ったりしていました。そんな環境で育ったので、自然と野球に興味を持つようになったんだと思います。
実際に野球を始めたのは、小学2年生のとき。兄と一緒に、野球チームに入りました。中学生までは、純粋に「野球が楽しい」という気持ちが練習のモチベーションになっていたように思います。どうしたら結果を残せるか、みたいなことはあまり考えていませんでしたね。
でも高校生になって野球との向き合い方が大きく変わりました。
どんな変化があったのでしょうか?
中学生までは軟式野球だったのですが、高校から硬式野球に変わりました。硬式野球と軟式野球では、ボールやグラブ、打ち方なども大きく違います。
中学校で軟式野球をやっていた人でも、高校入学と同時に野球を辞める人も多いほど。高校進学時は、野球をこのまま続けるか辞めるかを決める一つのタイミングでもあるんですよね。
野球をやる人にとって、重要な決断ポイントなんですね。
僕の場合は長距離走が得意だったので、親からは駅伝競技などを勧められたりもしました。確かに僕の野球での個人成績は、ぱっとするものではなかった。それでも野球が好きだったので高校でも続けていきたくて。
どうすれば守備やバッティングが上手になるかということを真剣に考えましたね。尊敬する先輩と出会って、相談に乗ってもらったりもして。その先輩のおかげもあり、広い視野で野球を捉えることができるようになったと思います。
また、高校3年生で野球部のキャプテンになったことも、僕にとっては大きな出来事でした。
大勢のチームメンバーの前で自分の考えを話したりすることが得意ではなく、もともとキャプテン向きの性格ではありませんでした。野球は団体競技でチームのことを考えて動くスポーツですが、それまでは自分中心の考えで動いていたように思います。
でもキャプテンになり、人をまとめざるを得ない状況になったことで、自分の行動や発言に気を付けるようになったし、周りの人の状況を見るようになって成長できたと思っています。大変なこともありましたが、現在の会社で、製造部のマネージャーを任せていただけているのは、当時の経験が生きてるんじゃないかなと思います。
野球が好き。たとえ壁にぶつかっても野球に携わっていたい
お仕事をされている有限会社ボールパーク ドットコムは、どのような会社ですか?
プロも使うような宮崎の野球場の管理、野球のバットやグラブの製造・販売を行っている会社です。2002年に設立されました。
どのような経緯で、グラブ職人を目指されたのですか?
野球をずっと続けてきたので、野球に関する仕事が自分には一番向いているんじゃないかと考えていました。本当はプロ野球選手も目指していましたが、体格が小さいので難しいだろうと感じていて。だからこそ、野球選手に直接関わることができる仕事を模索していたんだと思います。
そんな時に、テレビで久保田スラッガーのグラブ型付け(※)職人 江頭 重利さんの特集を見たんです。僕が中学生のときでした。
※型付けとはグラブを柔らかくする工程
江頭さんの作るグラブがプロ野球選手にも高く評価されていることを知り、グラブ職人になりたい!と思いました。すぐにグラブ職人について詳しく調べましたね。
どのような流れで今の会社と出会ったんですか?
高校の時、野球部の監督に、グラブ職人になりたいという話をしたんです。そしたら監督が、大手スポーツメーカーさんにグラブ製造のことを聞いたり、調べてくださったようなんです。
ある時監督が、宮崎で「宮崎にある素材」を使ってグラブを作りたいというボールパークドットコムのプランを知り、一緒に話を聞いてみることになりました。
最初は、県外の大手企業で働きたいという気持ちが大きかったので、正直にいうと最初は乗り気ではなかったんです。
でも、大手スポーツメーカーだとグラブ製造は流れ作業。プロが使ってくれるグラブを作ったとしても一部分しか関わることができないんです。でもボールパークドットコムのような地元企業だったら、一人で全工程に関わることができる。話を聞くうちに、そこに価値を感じたんです。
高校卒業後の2018年、有限会社ボールパークドットコムに入社しました。
入社後、未経験からすぐにグラブ製造の仕事を始められたのですか?
いいえ。入社当初、ボールパークドットコムとしては、グラブ製造は初めての取り組みでした。製造を教えてくれる人がいないということで、入社してから1年間はグラブ作りを学びに関西の工場に修行に行きました。
「1年」でグラブ作りの全工程を学ばれたのですか?
1年で作れるようになるのは無理だと周囲からも言われていたんですが、自分としてはなんとしてでも1年という期限の中でやり遂げたかった。
何もできない僕に、お金を出して面倒を見てくれる会社に対する責任もありました。あとは、職人になると周りの方に言ってたので。ここまで言ってる分、途中で辞めて帰るのも恥ずかしいなっていう気持ちもあったのだと思います。
数をこなせば慣れていくはずだと信じて、とにかく練習を重ねました。業務時間だけでは時間が足りないので、朝早くから夜遅くまで残って作業していましたね。修行先の方とは、とてもいい関係性で仕事をさせてもらったので、本当に感謝しています。
初めは野球に関する仕事がしたいというのがきっかけだったと思うのですが、そこまで頑張ることができる原動力は何なのでしょうか?
周囲からは、ポジティブだねと言ってもらえることが多い気がします。でもやっぱり野球が好きだという気持ちが原動力なんでしょうか。小さい時から両親にも「野球取ったら何もない」と言われていましたし(笑)。
僕の場合は、打てないとかエラーしたとか何か課題が見つかるたびに、それに対して考えて練習したりして結果が出た時の喜びや成功体験というのを、野球を通して感じてきました。野球で得られたものが大きいからこそ、辛いことや大変なことがあっても野球に携わりたいという気持ちを持ち続けられているんだと思います。
グラブ作りはどのような作業が発生するんですか?
最初は革を裁断する作業から始まります。それが終わったら、革の厚みがバラバラなので、パーツに合わせて厚みをミリ単位で揃えていきます。
そのあとは、紐通しの紐を作ったりとか。まずは1つグラブを作るためのパーツを準備していくところからはじめていきます。
作業をする中で一番難しい部分はどのようなところですか?
1番苦労したのは、縫製の部分です。2枚の革と1枚の紐状の革を全てズレがないように縫い合わせるっていう工程があるんですけど、ここが一番難しい工程ですね。
宮崎県産黒毛和牛レザー製のグラブも作られていらっしゃるとお聞きしました。
はい。実はボールパークドットコムは僕の入社以前からOEM(※)でグラブ作りに挑戦していましたが、なかなか売り上げが伸びなかったそうなんです。
※「Original Equipment Manufacturing」の略。製造を製造受託会社に委託することを指します。
そんな時、2017年に東京六大学オールスターゲームin宮崎大会が開催されました。
弊社の社長も大会運営に関わっていたので、大会開催記念に宮崎牛レザー製のグラブを選手達にプレゼントしたそうなんです。そのグラブが選手達から高評価で、そこから宮崎ブランドのグラブを作る、というプランが出来上がったようです。
宮崎県産黒毛和牛レザー製のグラブは他のグラブとどのように違うのでしょうか?
和牛の革は、海外製の革と違ってとても薄い。薄いけどしなやかで強度がある、一見矛盾しているようなのですが、宮崎県産黒毛和牛のレザーにはそのような特徴があります。
でも最初は、グラブに薄い和牛の革を採用するのは難しいとされていたんです。でも社長や関西の工場の人たちと一緒に考えながら、高校野球で3年間使えるような軽くて強度があるグラブを目指しています。
自分が作ったグラブで、メジャーリーガーを支える
グラブを作るお仕事をやってて良かったと思う瞬間はどんな時ですか?
作ったグラブが商品になった時ですね。
最初の頃は、作っても商品として出せないものばかりだったのですが、半年経った時に商品として出せるっていうクオリティになってきて。
自分が作ったものが世に出るっていう、その瞬間が一番嬉しかったですね。
自分が作ったグラブを買ってくださった方から「いいグラブだね」と言ってもらえることも嬉しいです。
実は、ここ1〜2年は、メジャーリーガーやプロ野球選手が使用するグラブも作らせてもらっているんですよ。プロの選手と関わるという仕事という夢に近づいているのを実感しますね。
メジャーリーグで活躍する選手も、両角さんが作ったグラブを使われているんですね!
日本製の技術は世界でも高く評価いただいています。
メジャーリーガーだと、ロサンゼルス・エンゼルスのドリュー・ポメランズ選手など沢山の選手に使っていただいているんですよ。
今後の目標を教えてください!
プロ野球選手やメジャーリーガーが使うようなグラブを、宮崎で作ってるということを知らない人は沢山いると思います。そこの認知度を高めたいですね。
大きな工場だと、プロ仕様のグラブと一般ユーザーのものでは製造体制が違うことが一般的です。でも僕たちみたいな中小企業であれば、プロ用も一般用も製造方法は変わらない。プロが使用するクオリティのグラブを一般の方にも届けることができるんです。
宮崎の高校野球や中学校、硬式野球をやっている方をメインにシェア率が高くなっていけばいいなと思います。
宮崎の若者へメッセージをお願いします!
仕事で野球関係者の方とお話しすると、宮崎県外の地方では、試合ができる球場の数が少なかったり球場のグラウンドの状況が良くないという話をよく聞くんです。
野球をしていた学生時代には気がつきませんでしたが、宮崎には野球をする人にとって良い環境が整っています。
宮崎の高校球児や野球をやっている子ども達にも、宮崎の環境を最大限活用して、プロが使っているようなグラブやバットを使って練習してもらいたい。宮崎における野球の全体的なレベルが上がっていけばいいなって思ってます。
また、学生時代はずっと、東京や関西圏の大手企業で働きたいと思っていました。でも大手企業ではできないことが、意外と宮崎で実現できたりするんですよね。
宮崎のような場所だからこそ、自分の価値っていうのも高まる事ってのもあると思うので。
都会のいいところも見てきたけど、今は宮崎で仕事をするメリットも沢山感じています。進みたい道があるのなら、同じ業界で同じような仕事が宮崎にもあるかもしれません。宮崎の良いところを探してみて、一緒に宮崎を盛り上げていけたらいいなと思っています!
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