20doのロゴ画像

代表取締役 上野 賢さんの画像

粘り強く、泥臭く。100年先にも美味しい魚食文化を残すために

WORK

株式会社Smolt代表取締役 上野 賢さん

皆さんは「サクラマス」を知っていますか?渓流に住むヤマメが大きくなった姿を表す呼び名です。準絶滅危惧種に指定されており、幻の高級魚とも呼ばれています。そんなサクラマスの養殖を天然と同様の育成方法で行い、商品開発まで行っているのが宮崎大学発ベンチャー企業株式会社Smoltです。代表取締役を務める上野賢さんは、英字雑誌「Forbes ASIA」が選出する「30 UNDER 30 ASIA」にて、世界にポジティブな変化をもたらす30歳以下の事業家として選出されています。国内メディアにも多数取り上げられ、多くの注目を集めている上野さん。これまでの経緯や思い、展望について伺いました。

アイコン写真

空手で鍛え上げた「雑草魂」!当時のライバルは今のパートナーに

自己紹介をお願いいたします!
株式会社Smolt(スモルト) 代表取締役の上野賢(うえの けん)と申します。岩手県釜石市出身、1995年生まれの28歳です。 現在は、事業を行いながら宮崎大学大学院農学工学総合研究科博士後期課程に在学中です。
学生時代はどのように過ごされましたか?
高校まで地元岩手県の学校に通い、小学1年生から18歳まで「空手」に励む日々でした。
なぜ「空手」だったのでしょうか?
最初は、純粋に強くなりたい、という理由だったと思います。幼いときに見ていた戦隊系のアニメの影響じゃないですかね。「強くなる・戦う=空手」だと思い、祖父が色々周辺の道場を調べてくれて、近くの道場に通うようになりました。 実際通い始めると、技術以上に鍛えられたのは「精神力」でした。 負けたくないという気持ちや、たくさん怒られるからやりたくないという気持ちとの葛藤もたくさんありました。 同じ道場に、全国で1位をとるような子もいて、かなり比較されましたね。彼女は、10年に1度の天才と呼ばれて、しっかり指導される。かたや自分は、どれだけ頑張って、ときには優勝をとろうとも、師範から「お前はまだまだだめだ。あの子はあんなにできるのに」と言われて認めてもらえず。しっかりと指導もしてもらえなかったりと、理不尽なこともありました。 かなりしんどい日々でしたが、親には「やりたいって自分で言ったものは続けなさい」と言われ、続けざるを得ませんでした。
それはなかなかしんどい状況でしたね。なぜ18歳まで続けることができたのでしょうか。
一緒に習っていた友人や、ライバルだった彼女がいたから、一緒に頑張って乗り越えることができたと思います。小学4年生からは道場の体制も代わり、しっかりと応援してもらえるようになったのも大きいですね。 でもそのときの経験があるからこそ、どんな状況でも頑張れる「雑草魂」みたいな強い精神力がつきましたね。 ちなみにその当時のライバルだった彼女は、今の妻でもあるんですよ。
すごい!ドラマみたいな展開ですね。
そうですね。2023年に結婚し、今は彼女も宮崎で一緒に暮らしています。

卒業式前日の震災。未知の地、宮崎への進学

2011年の東日本大震災発生時、中学3年生だったかと思います。地元にいらっしゃったのでしょうか?
そうですね。中学校の卒業式の前日で、卒業式の準備をして帰宅し、友人たちと遊んでいるときに震災が起こりました。家が平行四辺形に見えるくらいにグラグラと揺れ、経験したことのない大きな地震でした。 地震後は、携帯電話で津波の映像を見て、これはえらいことになったなと。 実家は山側にあったので、津波の被害にあうことはなかったのですが、街の光景は未だに鮮明に覚えています。もともと住宅地だったところに、大きな船が流れ着いていたり、電柱が傾いていたり。数え切れないほどの救急車や消防車が、救助に走っていく。1週間ほど電気は通らず、2週間はガスが来ず、学校の体育館は数多くの避難者が集まっていました。ずっと忘れることのできない光景です。 その後、様々な復興の施策が打たれ、街には外部から優秀な方々が集い、ハード面は震災以前以上に栄えました。 一方で、高校生活はかなり探り探りな日々でした。両親を亡くした人もいれば、仮設住宅に住んでいる人もいて、どこまで触れていいのか難しかった。コミュニケーションも慎重に行っていましたね。体育館は避難所として使われ、運動場は自衛隊の基地として使用されていたので、体育の授業はかなり制限されました。
高校卒業後、なぜ宮崎大学への進学を選択したのでしょうか?
大学進学を考えるタイミングで、幼いころから好きだった「生き物」に携わることを学びたいと思いました。幼少期から、実家で虫や魚を飼っており、釣りが好きで、魚に触れる機会が多く、生き物全般が好きでした。 そんな中で見つけたのが、「宮崎大学 農学部 海洋生物環境学科」でした。当時見た宮崎大学のwebサイトには、美しい宮崎の海の写真が載っていました。こんな透明度の高い綺麗な海のそばで学べるなら、縁もゆかりも無いけど思い切って行ってみたい!と思ったんです。 一般的に、仙台か東京に進学することの多い、岩手県の学生。絶対に反対されるだろうと思い、誰にも言わずに受験を決めました。
親戚もおらず、未知の地宮崎に行くことに抵抗はありませんでしたか?
全くなかったです!空手で遠征をすることも多く、都度その土地の新しい人との出会いや食べ物を知れることがとても楽しくて。 むしろ誰も知らないところに行きたいと思っていました。
進学後困ったことはありませんでしたか?
「方言」ですね!宮崎に初めて来たときに、タクシーに乗ったんですが、超ウェルカムに迎え入れてくれて、話かけてくれたんですが、何言っているか全然わからなくて(笑)。苦笑いで相槌することしかできませんでしたね。 宮崎の方は東北の人と違って、初手からフレンドリーで驚きます。県外の人間であっても、オープンに受け入れる気質がありますよね。地元以外に出たからこそ気付けた違いでしたね。

ビジコンをきっかけに学生起業。魚食文化を守るために

大学在学中に起業されていますが、どのような経緯だったのでしょうか?
進学後は、微生物や魚の生育や繁殖、食品科学に至るまで幅広く学んでいました。ゼミを検討していたときに出会ったのが、鮭や鱒の研究を専門にしている内田勝久教授(株式会社Smolt 取締役)でした。 内田教授から「実は研究で、岩手県の釜石市で研究に行っていたんだよ」と聞き、不思議なご縁を感じ、共に研究を行いたいとゼミに入りました。 内田教授は、「大局的(※)に物事を見ること」と「現場を見ること」を大事にされる方でした。研究室で試験管などを使った研究をするだけではなく、サクラマスの生産現場を自分の目で見に行っていました。魚の住む環境や魚の大きさそのものを見て、触れて、現場の方に話を聞いて。だからこそ見えてくる課題が数多くありました。 サクラマスの研究はしているけれども、じゃあどうやって産業につなげていくのか?また、誰がやるのか、など。 そんなときに宮崎大学が第1回目のビジネスプランコンテストを開催すると聞き、自ら起業する気はなかったのですがビジネス視点も身につけたいとチャレンジすることにしました。審査員の中には、大手民間企業の方もおり、様々なアドバイスをいただく中で経営視点の気付きも多くいただくことができました。まさにここでも研究者視点と経営者視点、大局的に物事を捉えることができたんです。 加えて、非常に評価も高くて。これはいけるかもしれない!と考え、起業のことは何もわからない状態で、2019年に宮崎大学初のベンチャー企業として株式会社Smoltを設立しました。

※大局的とは、部分的ではなく全局面を俯瞰して状況や動きを捉えることを意味する

サクラマスの認知度がまだあまりない中での販売は難しかったのではないでしょうか?
ANA国際線ファーストクラス機内食で提供されている商品「つきみいくら」
黄金に輝く、つきみいくら。数多くのメディアや芸能人が紹介し、人気を集めている

画像出典:株式会社Smolt webサイトより https://www.smolt.co.jp/

 

そうですね。大変なこともたくさんありましたし、たくさん失敗もしました。 時には「学生でしょ?」と軽く見られることもありました。価値をわかっていただける方に理解してもらえればいいと、応援してくださる方に紹介していただくかたちで徐々に繋がっていき、メディアにも取り上げていただき、広がっていっていきました。 失敗しても次に活かせばいい。ひたすら試行錯誤し、チャレンジし続けている状態です。
事業を展開する中で最も嬉しかったことは何でしょうか?
まずは、研究のときから協力いただいている延岡のパートナーの方が、はじめのうちは「君たちは大丈夫か?」という感じだったのですが、メディアが取材に入り段々と盛り上がっていくにつれて「俺も一口乗りたいな!」と言ってくれて。自分たち側に来てくれたと感じたときにはとても嬉しかったです。 また、宮崎の老舗百貨店さんが、カタログ一面に取り上げてくださったり、テレビで「目玉は、宮崎牛・宮崎マンゴー、そしてつきみいくらです!」と言ってくれたことがあって。とても応援していただけているんだと大変嬉しくなりました。
上野さんにとって、サクラマスの魅力はどういったことしょうか?
画像出典:株式会社Smolt webサイト「サクラマスってどんな魚?」より
生き物らしさがあること、でしょうか。 サクラマスはどんなに選抜しても、個体差がかなりでるんです。太りやすかったり、太りづらかったり。大きくなりやすいものや小さいものなど、多様でバリエーションがある。個性があるから、「ジャンボ」とか名前をつけて呼んだりしてて(笑)。他のサーモンとかではこういったことはなく、均一性があるんです。 そこが生き物らしくてユニークで、面白い部分だなと思っています。博士課程の研究テーマにしていきたいなと思っています。
今後の展望を教えて下さい。
今後は、これまで同様サクラマスの認知を拡大し、販売をしていきたいと思います。また、国内のみならず海外への販路も広げて行きたいと考えています。 あとは、サクラマスの生産者を増やすことも目標にしています。弊社で稚魚を育て、全国の水産の養殖事業者が生育し、販売する。質の良いサクラマスを手軽に生産できる状態を作り出していく。そして、水産事業に従事する方々の収入アップに貢献したいと思っています。 最終的には、輸入に頼りがちなサーモンなどの国内養殖生産を支えていき、国内供給を拡大していきたいですね。 我々のミッションは、100年先もおいしい魚と食文化を残していくこと。代替ではなく、魚そのものを未来につないで行きたいですね。
最後に、宮崎の若者へのメッセージをお願いします!
起業している人たちって、いろいろとキラキラしていたり、スマートに見えることって多いと思うのですが、結局は泥臭くどこまでやれるかが大事だと思っています。 だからこそ、うまくいかなくても粘り強くやっていくといいのかな、と思います。世の中はうまくいかないことも多い。ぜひ学生のうちに、たくさん苦労してください!

●株式会社Smolt公式webサイト

https://www.smolt.co.jp/

ーーーーー

■アプリ限定動画も配信中!インストールはこちらから▼

https://www.20do.jp/lp202212/

■20do 公式Instagramもフォローしてね!

https://www.instagram.com/20do_miyazakicity

Back